一般民事事件 - 建築をめぐる紛争

建築をめぐる紛争について

一般民事事件 - 建築をめぐる紛争

欠陥があるかどうかについては,どのように判断されるのでしょうか?

訴訟において,欠陥(法律用語では「瑕疵=かし」と呼びます。)であるとの法的評価を得るためには,不具合現象(欠陥現象)の指摘は事情にすぎず,欠陥現象を生じさせている欠陥原因を明らかにする必要があります。すなわち,欠陥現象は,いわば病状にすぎず,病気を治すためには,その原因を究明する必要があります。逆に,欠陥現象が生じていなくても,その欠陥原因が明らかであれば,欠陥との評価がなされます。

そして,欠陥とは,取得した住宅が,契約内容に適合していないこと,契約内容どおりの性能ないし品質を欠いていることを意味します。そして,契約内容は,設計図書等で確定されるはずのものですが,契約内容に関する資料である設計図書等が十分に明確でない場合があります。このような場合には,建築基準法その他関係法令(建築基準法,同施行令,国土交通省告示,各地方条例,消防法,電気事業法等)に違反していること,建築学会や住宅金融公庫仕様書などの客観的技術基準に違反していることなどを立証する必要があります。

例えば,公庫仕様書は,施工者にとって,設計の都度仕様書を作成する手間と経費を削減し,建築主にとっては,工事を安心して施工者に任せることができるよう,標準的な仕様をまとめたものであり,どのような材料を使うべきか,どのような工法によるべきか,各工事項目(基礎工事,躯体工事,屋根工事,断熱工事,造作工事,左官工事,内外装工事,設備工事等)や工法(木造や鉄筋コンクリート造など)ごとに詳細に解説されています。

日本建築学会建築工事標準仕様書(JAAS)等は,日本建築学会のホームページから,公庫仕様書は,財団法人住宅金融普及協会のホームページから,それぞれ入手できます。また,財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターは,各年度ごとに,(1)不具合の発生原因を調査する方法や,(2)その補修方法と費用に関する技術資料をまとめた住宅紛争処理技術関連資料集を発行しており,参考になります。
実際の裁判では,瑕疵一覧表を作成しながら,争点を整理していきます。

なお,瑕疵は,物質的な瑕疵のみならず,例えば前の所有者が自殺したことなども心理的な瑕疵に当たり,この事実を告げずに売買契約を締結した場合などには,契約の解除や損害賠償請求ができることになります。

請負人(建設業者)に対する責任追及

(1)建物完成前は,債務不履行責任の問題,(2)建物完成後は,瑕疵担保責任の問題となります。
建物が完成したと言えるかどうかについては,請負工事が当初予定された最後の工程まで一応終了し,建築された建物が社会通念上建物として完成しているかどうか,主要構造部分が約定どおり施工されているかどうか等を基準として判断されています。

建物完成後,瑕疵修補請求(修繕を求める請求のこと)や損害賠償が可能ですが,契約解除はできないとされています。これは,注文者の解除を認めてしまうと,報酬を受けられずに建物を除去しなければならない請負人の負担が過大になる上,社会経済的にも損失が大きいため,解除権が制限されています(但し,注文者は,請負人に対し,建替費用に相当する額の損害賠償請求は可能とされています。)。
なお,建物が完成していない場合には,上記趣旨が必ずしも当てはまらないため,建物に欠陥があり,その欠陥のため契約の目的を達成できない場合には,注文者は,債務不履行の一般原則に従って,請負契約を解除できますし,損害賠償の請求もできます。

また,このような責任を追及できる期間としては,平成12年4月1日以降に締結された新築住宅の契約(売買,請負)については,住宅の品質確保の促進に関する法律(以下「品確法」と言います。)が適用され,売買,請負とも,基本構造部分に関する瑕疵については,瑕疵担保期間を引渡時から10年とし,この期間を短縮する合意は無効としました。ここでいう基本構造部分とは,「構造耐力上主要な部分」及び「雨水の侵入を防止する部分」を指します。構造安全の確保と,風雨をしのげることは,住宅にとって,最低限必要なことであるから,特に責任が強化されたものです。

建売住宅の売主に対する責任追及

売買契約の目的物である建物に隠れた欠陥が存在していた場合,買主は,売主に対して損害賠償を請求することができます。そして,その欠陥のために売買契約を締結した目的を達成することができないときは,請負契約の場合と異なり,買主は,売買契約を解除することもできます。
また,この解除又は損害賠償請求は,品確法により,構造耐力上主要な部分」及び「雨水の侵入を防止する部分については,引渡時から10年間可能であり,この期間を短縮する合意は無効とされました。
さらに,品確法により,請負契約だけでなく,売買契約についても,買主の選択により,売主に対して,瑕疵修補請求もできこととなりました。

設計者に対する責任追及

(1)設計の内容が建築主の指示した内容に反している場合(指示違反の設計),(2)建築主の明示的な指示には反していないが,完成した建物に設計に由来する瑕疵がある場合(瑕疵ある設計),(3)設計どおりに建築工事が行われなかったために,結果的に建築主の指示とは異なる工事がなされた場合,(4)建築工事の結果,建物に瑕疵が生じた場合に,それらが設計者の工事監理の不十分にも原因があると認められる場合,設計者は建築主に対して債務不履行責任(あるいは不法行為責任)を負います。

損害賠償を求める項目としては,どのようなものがあるのでしょうか?

(1)補修費用相当額

欠陥を是正し,契約上予定された性能と品質を回復するために必要かつ相当な補修方法の確定と,その補修に要する費用額の確定が必要です。この場合,契約上予定された性能と品質を回復させるために相当な方法は何かという視点が重要です。その他にも

(2)補修期間中の仮住まい費用

(3)建築士調査費用

(4)営業用建物の場合は,営業損害

(5)慰謝料

(6)弁護士費用

(7)取壊し建替え請求を行う場合には,当該欠陥住宅の取得に要した費用(登記手続費用,仲介手数料等)

の請求が可能です。

紛争解決の手段として,訴訟以外に,どのような方法があるのでしょうか? 

  1. 建設工事紛争審査会によるあっせん,調停,仲裁

    建設工事の請負契約に関する紛争に限定されています。
    あっせん,調停,仲裁の3つの解決手段が選択できます。
     
  2. 品確法に基づく指定住宅紛争処理機関によるあっせん,調停,仲裁

    具体的な住宅が表示された性能を有していることを確認する手段が住宅性能評価であり,国土交通大臣が登録した第三者機関である登録住宅性能評価機関がこの評価を行い,住宅性能評価書を申請者に交付します。
    この住宅性能評価書には,設計住宅性能評価書建設住宅性能評価書の2種類があり,(1)構造の安定に関すること,(2)火災時の安全に関すること,(3)劣化の軽減に関すること,(4)維持管理・更新への配慮に関すること,(5)温熱環境に関すること,(6)空気環境に関すること,(7)光・視環境に関すること,(8)音環境に関すること,(9)高齢者等への配慮に関すること,(10)防犯に関することという10分野について,ランク制評価をなされます。

    品確法が定める性能表示制度が対象とするのは,新築住宅のみです。

    建設住宅性能評価書が交付された住宅(評価住宅)に関する紛争を簡易迅速かつ的確に処理するため,品確法は,民間型のADRとして,弁護士会等を紛争処理機関として指定し,公正中立な第三者機関として,建築の専門家と共に,あっせん,調停,仲裁という方法により,紛争の解決を目指しています。
    指定住宅紛争処理機関が扱うのは,評価住宅の建設工事の請負契約又は売買契約に関する紛争に限定されています。

    建築紛争においては,建築物が完成してから検査することには限界があり,その点の主張立証が困難であることが紛争を長期化させる一つの要因となっていたところ,評価住宅は,設計段階や施工の途中及び完成段階において指定住宅性能評価機関による施工状況等に関する検査・評価の書類が指定住宅性能評価機関に保存されており,紛争が生じた場合にこれらの資料を利用して迅速かつ適正な処理をすることが期待されています。
    釧路弁護士会も,指定住宅紛争処理機関として指定されています。

    くわしくは,国土交通省住宅局住宅生産課が監修した「住宅性能表示制度ガイド」をご参照下さい。
    北海道で登録住宅性能評価機関として登録されている団体としては,例えば,北海道建築指導センターがあります。
     
  3.  「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(以下「履行確保法」と言います。)に基づく指定住宅紛争処理機関によるあっせん,調停,仲裁

    上記(2)と同様の制度です。履行確保法については,以下を参照してください。

履行確保法とは,どのような法律ですか?

平成21年10月1日以降に引き渡される新築住宅の買主又は注文者(消費者)が,宅地建物取引業者(売主)又は建設業者(請負人)から,品確法によって義務付けられた10年間の瑕疵担保責任の履行を確実に受けられるようにするため(倒産等に備えて),宅地建物取引業者(売主)及び建設業者(請負人)に対し,(1)平成21年1日以降,過去10年間の間に供給された建物の個数に応じて算定された金額の現金等を法務局に供託すること,あるいは,(2)指定保険法人との間で住宅瑕疵担保責任保険を締結することを義務付ける法律です。

そして,宅地建物取引業者(売主)及び建設業者(請負人)が保険に加入するためには,保険法人が施行時に実施する複数回の検査に合格する必要があり(例えば,建物が3階建て以下の場合,基礎配筋工事の完了時,及び,躯体工事の完了時),また,モラルハザードを防止するため,損害の全額について保険が下りるのではなく,約20パーセントは自己負担しなければなりません。

これに対し,住宅の購入者又は注文者は,宅地建物取引業者(売主)又は建設業者(請負人)が倒産したり,何度も補修を請求しても応じて貰えない場合,指定保険法人に対して直接保険金の請求をすることができます。

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